時計が日付が変わってから8分が経過したことを示している。
未だに処理が終わっていない書類がうずたかく積まれていて一日中右手を動かしていたのに一つも減っていない気がする。
大佐がもう何度目かも数える気にならない溜息をつきながらぶつぶつとつぶやいた。
「ホンッッッットに君って奴は融通というか、柔軟な思考というか時にハメを外すゆとりというかそんな選択肢は存在しないのかね。」
独り言という範疇には収まらない大きさの声に部下の言葉が続く。
「ええ、これ程書類を溜め込んでいなければもっと融通をきかせたり柔軟な思考による対処もできましたが。今回はムリです。」
言葉は丁寧だがその口調には茨のようなトゲが仕込まれていた。 「だからってねぇ……コレはないだろう?仮にも私は君の上司なんだがね。」
頬杖をついていた左手を軽く振ると手首にかけられた金属の輪がじゃらっと音を立てる。金属の輪からは同じ金属の鎖が繋がっており、紫紺の手首へと続いていた。
「今回ばかりはいつものようになんだかんだ言って逃げられては困りますのでね。緊急措置というものです。ついでに言うなら仮ではなく大佐が私の上司なのは事実です。」
「そういう問題じゃ……。」
「さぁ、早くサインを済ませて下さい。私の作業に空きが出来てしまいます。」
なおも反論しようとする大佐の言葉をやはりトゲのついた冷たい言葉で封じる。
紫紺の体躯をした部下の、にべもない反応に大佐はついに反抗を諦めて作業を再開する。
あと何時間この作業を強いられるか考えるだけで疲労が増しそうだった。
だから大佐は気付かなかった。
そっけない態度で黙々と作業しているガルルの口元がほんの少し嬉しそうに笑みを浮かべていたことを。
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